クラウドソーシングの案件を、生成AI を使って進めていいのか。この点について、はっきりした答えを探すと、意外なほど見つかりません。
検索すると出てくるのは「バレる」「アカウントが止まる」という話と、「効率化なのだから問題ない」という話です。どちらも根拠の提示が薄く、読んでも自分の案件がどちらなのか分かりません。
この記事では、プラットフォームの公開文書と、関係する法令の条文を実際に読みます。調査は2026年9月1日時点です。
※ 本記事は公開されている各社の記載および公的機関の資料を整理したものです。個別の案件が規約違反や法令違反にあたるかどうかを判定するものではありません。
読み始めて最初に分かったこと
プラットフォーム側は、AI の利用そのものを禁止していませんでした。
クラウドワークスは2024年7月31日に「クラウドワークス上での AI 活用に関するポリシー」を公開しています。そこには、AI を利用して同サービス上の業務を行うことを会社として禁止しておらず、受発注者間の取り決めに委ねていると書かれていました。
会社としてのスタンスも添えられていて、AI は仕事を完全に代替するものではなく、アイディア出しを手伝ったり、文章の誤脱を直してより良い表現にしたりする、働く人を支援するものと位置づけられています。
つまり、「使っていいか」という問いに対して、プラットフォームは答えを出していません。答えを出す場所を、発注者と受注者の間に移しています。
ワーカー側に書かれていた内容
同じポリシーには、ワーカーへのお願いとして次の内容が並んでいます。
- AI 利用について、事前に利用可否をクライアントに確認する。利用していることを意図的に隠さないなど、透明性の高いコミュニケーションを心がける
- AI 利用の有無にかかわらず、クライアントと合意した品質基準を守る
- 仕事の詳細や条件、メッセージで AI 利用可否が明示されている場合は、その内容を守る
- クライアント情報・案件情報など機密性の高い事項を外部ツールに入力・アップロードする際は、情報の取り扱いに留意する
- 知的財産権や機密情報の取り扱いに注意し、双方が不利益を被らないようにする
ここで目に留まるのは、「隠さない」と「事前に確認する」が並んでいることです。案件ページに何も書かれていない場合、確認しないまま進めると、この記載からは外れる形になります。
判断が案件ごとに下りてきている
ランサーズ側の取り組みを見ると、この構造がもっとはっきりします。
同社は、コンペ方式の依頼時に「生成AI の使用許可・制限」を選択・明示できるチェック項目を提供しています。依頼者と受注者の双方が、AI の利用方針を事前に共有できるようにする、という趣旨です。
あわせて、生成AI の扱い(使用の可否・利用範囲・使用方法・注意事項)を取り決められる発注書フォーマットも無料で配布されています。同社が公開したフリーランス法の実態調査では、フリーランス・企業の双方から最も多く挙がった課題が「AI 成果物の法的整理」だったと報告されていました。
裏を返すと、いま多くの発注書や契約書には、AI の扱いが書かれていないということです。書かれていない状態のまま取引が進んでいるのが、2026年時点の姿だと読めます。
規約とは別に、法令側にも記載があった
ここまではプラットフォームの文書です。調べていくと、同じ場面を扱っている法令がありました。
フリーランス・事業者間取引適正化等法、いわゆるフリーランス法です。2024年11月1日に施行されています。公正取引委員会の特設サイトに、条文の内容が整理された形で公開されていました。
この法律でいう「フリーランス」は、業務委託の相手方である事業者で、従業員を使用しないものと定義されています。注意書きとして、一般にフリーランスと呼ばれる方でも、従業員を使用している場合や、消費者を相手に取引をしている場合は、この法律の「フリーランス」には該当しないことがあると書かれていました。
自分の取引がこの定義に当てはまるかどうかは、契約の相手が事業者かどうかなどによって変わります。ここは記事の側で判定できる部分ではありません。後述する相談窓口が用意されています。
二つの文書が扱っている層が違った
読み比べて、はっきり性格が分かれる箇所がありました。
クラウドワークスのポリシーには、クライアント向けの記載もあります。そこには、合理的な説明なく AI 利用のみを理由とした値下げ行為、納品物の不受理、不当な評価などは控えてほしいという内容が書かれていました。AI を使ったかどうかワーカーへの事実確認をしないまま不利益をもたらす行為、ワーカーの合意なく納品物やポートフォリオを AI の学習に用いる行為については、禁止と明記されています。
一方、フリーランス法の側には、1か月以上の業務委託をしている場合の7つの禁止行為が挙げられていました。
- 受領拒否(フリーランスに責任がないのに、委託した物品や情報成果物の受取を拒むこと)
- 報酬の減額(フリーランスに責任がないのに、委託時に定めた報酬の額を後から減らして支払うこと)
- 返品
- 買いたたき(通常支払われる対価に比べ著しく低い報酬の額を不当に定めること)
- 購入・利用強制
- 不当な経済上の利益の提供要請
- 不当な給付内容の変更・やり直し
報酬の減額については、特設サイトの解説に踏み込んだ記載がありました。協賛金の徴収や原材料価格の下落など、名目や方法、金額にかかわらず、あらゆる減額行為が対象になるという説明です。
並べてみると、扱っている層が違います。プラットフォームの文書は「控えてください」というお願いで、法令の側は事業者に課される義務として書かれていました。同じ場面に、性格の違う二つの記載が重なっている状態です。
自分の案件を照らす場所
フリーランス法には、取引条件の明示義務も定められていました。業務委託をした場合、直ちに書面または電磁的方法(メール、SNS のメッセージ等)で取引条件を明示しなければならず、口頭で伝えることは認められないとされています。
明示すべき事項として挙げられていたのは、次の内容です。
- 発注事業者・フリーランスの名称
- 業務委託をした日
- 給付の内容
- 給付を受領する期日/役務の提供を受ける期日
- 給付を受領する場所/役務の提供を受ける場所
- 検査完了期日(検査をする場合のみ)
- 報酬の額および支払期日
- 報酬の支払方法に関すること(金銭以外の方法で支払う場合のみ)
報酬の支払期日については、受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内で定めることとされていました。よくある質問には、契約書を締結していても、その契約書に明示事項がすべて記載されていなければ明示として不十分である、という回答も載っていました。
AI の話から入って、結局ここに戻ってきます。AI を使ったかどうかで揉めるとき、手元にあるのは案件ページとメッセージのやり取りです。何が明示されていて、何が明示されていなかったのか。照らす先は、そこにありました。
読んでいる間、ずっと出てきた条件
ここまで受注する側に有利な記載を並べましたが、読み通すと、逆方向の記載も同じ頻度で出てきます。
クラウドワークスのポリシーで、ワーカーに求められていたのは、品質基準を守ること、案件に明示された条件を守ること、そして機密情報の取り扱いに留意することでした。禁止行為の側にも、クライアントの不利益になる行為が挙げられています。
フリーランス法の禁止行為も、いずれも「フリーランスに責任がないのに」という条件が先に付いています。納品物に問題があった場合まで守られる、という構造にはなっていません。
AI の出力をそのまま納品して内容に誤りがあった場合、それは AI を使ったかどうかの話ではなく、品質の話として扱われることになります。この二つは、文書の上では別の項目に置かれていました。
相談先として案内されていた窓口
公正取引委員会の特設サイトには、フリーランス向けの窓口が二つ案内されていました。
- フリーランス法の違反申出窓口(行政機関)
- フリーランス・トラブル110番(弁護士が対応する相談窓口)
あわせて、申出をしたことを理由に、契約解除や取引停止などの不利益な取扱いをすることは禁止と書かれていました。報復措置の禁止として、独立した項目が立てられています。
まとめ
調べて確認できたのは、次の点です。
- クラウドワークスは AI の利用自体を禁止しておらず、受発注者間の取り決めに委ねている
- ランサーズは、依頼側が AI の使用可否を明示できる仕組みと、発注書フォーマットを用意している
- プラットフォームの文書は「お願い」の形で、フリーランス法は事業者の義務として書かれている
- 取引条件の明示義務と支払期日の定めがあり、照らす対象は案件ページとメッセージのやり取りになる
- 相談窓口は行政機関と弁護士対応の二つが案内されている
確認できなかったのは、自分の取引が法律上どの区分に入るのかという部分です。従業員を使用しているか、相手が事業者か、委託期間が1か月以上か。条件によって適用される項目が変わる作りになっていて、ここは個別に確認するしかありません。
案件に AI の可否が書かれていない状態が普通である以上、先に聞いておく、という選択肢がいちばん手前にあります。ランサーズが発注書フォーマットを配っているのも、聞かれる前提で用意しておく、という発想に見えました。
※ 本記事は2026年9月1日時点の情報をもとに整理したものです。各社のポリシー・規約・提供機能、および法令の運用はいずれも変更されます。実際の取引前に、クラウドワークス「クラウドワークス上での AI 活用に関するポリシー」(2024年7月31日公開)、ランサーズの公式発表、および公正取引委員会「フリーランス法特設サイト」の最新の記載を必ずご確認ください。個別の事案が法令違反にあたるかどうかの判断は、記事の側では行っていません。



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