AI 副業の記事を書いていると、読み手の側から同じ質問が何度も届く場所があります。Yahoo!知恵袋で「扶養」と「副業」を並べて検索すると、「103 万円と 130 万円、どちらが本当なのか分からなくなった」という質問が繰り返し出てきます。パートで扶養の範囲に収めている人が、在宅で AI を使った仕事を足そうとして、どこまでなら大丈夫なのかで止まっているという形です。
しかも 2026 年は、この話の前提が二か所で動いています。健康保険の扶養の判定方法が 4 月から変わり、税の側の基準額も 2026 年分から変わります。公式の資料を順に読みました。
読んだもの
- 厚生労働省 通知「労働契約内容による年間収入が基準額未満である場合の被扶養者の認定における年間収入の取扱いについて」(令和 7 年 10 月 1 日)
- 厚生労働省 事務連絡「同 Q&A(第 2 版)」(令和 8 年 3 月 9 日)
- 日本年金機構 お知らせ(令和 7 年 12 月 25 日更新)
- 国税庁タックスアンサー No.1190・No.1191・No.1195(配偶者控除・配偶者特別控除)
- 全国健康保険協会(協会けんぽ)と、いくつかの健康保険組合の被扶養者認定の案内
「扶養」は二つあります
最初に整理しておくと、混乱のもとはここでした。知恵袋の回答にも「健康保険の被扶養者の条件と、税金の配偶者控除の条件とは別の法律、別の基準」という趣旨の説明が繰り返し出てきます。資料を読んでも、その通りでした。
| 項目 | 税(配偶者控除・配偶者特別控除) | 健康保険(被扶養者) |
|---|---|---|
| 見るもの | 所得(収入から経費などを引いた後) | 収入(経費の扱いは限定的) |
| 期間 | 1 月 1 日〜12 月 31 日の実績 | 今後 1 年間の見込み |
| 基準(配偶者の場合) | 合計所得金額 62 万円以下(2026 年分) | 年間収入 130 万円未満 |
| 判定する人 | 納税者本人(年末調整・確定申告) | 保険者(協会けんぽ・健康保険組合など) |
「扶養を外れる」という言葉は、このどちらを指しているのかで意味が変わります。以下、二つを分けて読みます。
税の側:2026 年分から基準が 62 万円に
国税庁のタックスアンサー No.1190(令和 8 年 4 月 1 日現在法令等)には、配偶者の年間の合計所得金額が62 万円以下であれば配偶者控除が受けられる、と書かれています。令和 8 年 12 月 1 日に施行され、令和 8 年分(2026 年分)から適用される金額という注記付きです。2025 年分は 58 万円、2020〜2024 年分は 48 万円でした。
給与だけの場合の目安も載っています。給与収入が 136 万円以下なら、給与所得控除 74 万円を引いて合計所得金額が 62 万円以下になる、という計算です。「103 万円の壁」と呼ばれてきた線は、2025 年分で 123 万円、2026 年分で 136 万円まで動いたことになります。
62 万円を超えても、133 万円以下なら配偶者特別控除の対象になり得ます(No.1195)。控除額は配偶者の所得と納税者本人の所得に応じて段階的に変わり、納税者本人の合計所得金額が 1,000 万円を超える年はどちらも受けられません。
AI 副業の収入はここにどう入るか。No.1190 には、給与所得以外の所得がある場合も合計所得金額で判定するとあり、給与所得に他の所得を足す計算例が載っています。副業の収入は、売上から必要経費を引いた「所得」として合計に入る形です。
仮に、パート給与 100 万円、AI 副業の売上 30 万円、その経費 10 万円とすると、税の側はこうなります。
- 給与所得=100 万円−74 万円=26 万円
- 副業の所得=30 万円−10 万円=20 万円
- 合計所得金額=46 万円(2026 年分の基準 62 万円以下)
税の側だけ見れば、この例は配偶者控除の範囲に収まる計算です。問題は、同じ数字を健康保険の側で見たときでした。
健康保険の側:130 万円「未満」と、今後 1 年の見込み
健康保険の被扶養者になる条件は、配偶者の場合、年間収入が130 万円未満で、同居していれば被保険者の年間収入の 2 分の 1 未満であることです(60 歳以上などは 180 万円未満)。130 万円「以下」ではなく「未満」なので、ちょうど 130 万円は外れます。
ここでいう年間収入には、給与だけでなく事業収入も含まれます。協会けんぽの被扶養者資格の再確認の案内(令和元年度版)には、年収とは給与収入、事業収入、財産収入、公的年金、失業給付などのことだと書かれています。そして自営業の場合の年収は、年間総収入から「直接的経費」を差し引いた額とされています。
「直接的経費」の説明がこれです。その経費がなければ事業が成り立たない経費で、製造業の原材料費や小売業の仕入れ費が例に挙がっています。それ以外の費用、たとえば公租公課や宣伝費は差し引けないとあります。税の必要経費より、ずっと狭い範囲です。
2026 年 4 月の新しい判定方法
ここに今年の変更が入ります。厚生労働省の通知によると、2026 年 4 月 1 日以降に認定されるものについて、年間収入を労働条件通知書など労働契約の内容から判定する取扱いが始まりました。
Q&A によると、趣旨は就業調整対策で、被扶養者認定の予見可能性を高めるためとされています。契約書に定めのない残業代などの「臨時収入」は、年間収入の見込みに含めません。時給・労働時間・日数から計算した額が 130 万円未満なら、原則として被扶養者として扱う、という形です。
パートだけで働いている人にとっては、繁忙期の残業で結果的に 130 万円を少し超えても、すぐには扶養を外れにくくなる変更と読めます。ただし Q&A には、臨時収入を前提に契約上の賃金や労働時間を不当に低く記載していた場合などは認定を取り消せるとも書かれています。
副業の収入があると、この方法は使えません
AI 副業をしている人にとって、いちばん大事なのはここでした。通知の本文には、この扱いの条件として「他の収入が見込まれず」と書かれています。日本年金機構のお知らせも同じ書き方です。
Q&A を読むと、さらにはっきりしています。
- Q5:認定対象者に「給与収入のみである」旨の申立てを求める。被扶養者(異動)届の申立書欄に本人が書くか、本人作成の申立書を添付する
- Q5-3:この申立ての代わりに課税(非課税)証明書を使うことはできない。証明書は前年度の所得を示すもので、今後 1 年間給与収入のみであることを示すものではないため
- Q6:給与収入以外に事業収入などの他の収入がある場合は、従来どおり給与明細書、課税(非課税)証明書等により年間収入を判定する
- Q8-3:認定時に提出した書類や「給与収入のみである」旨の申立書の内容に誤りがあった場合は、認定時にさかのぼって取り消す
つまり、パートに AI 副業を足している人は、新しい判定方法の対象から外れ、残業代なども含めた従来の見込みで判定されることになります。副業の収入を伏せて「給与収入のみ」と申し立てれば、あとから判明したときに遡って取り消される扱いが Q&A に明記されています。
先ほどの例に戻すと、健康保険の側はこう見えます。
| 副業の経費 10 万円の扱い | 年間収入の見込み | 130 万円未満か |
|---|---|---|
| 直接的経費として認められる場合 | 100 万円+(30 万円−10 万円)=120 万円 | 未満 |
| 直接的経費として認められない場合 | 100 万円+30 万円=130 万円 | 未満ではない |
税の側では余裕のあった数字が、健康保険の側では経費の扱いひとつで線をまたぐことになります。しかも、このパート給与には従来どおり残業代などの見込みも含まれます。
経費の扱いは、保険者ごとに違います
では、AI ツールの月額料金や画像素材の購入費は「直接的経費」に入るのか。ここは全国共通の答えを見つけられませんでした。
協会けんぽの案内は、先ほどの原材料費・仕入れ費という例示までです。大企業などが持つ健康保険組合は、それぞれ独自に一覧表を定めています。たとえば電通健康保険組合の案内には、租税公課、広告宣伝費、接待交際費、福利厚生費、青色申告特別控除額は差し引けないとあり、個別の経費は別表で定め、別表にないものは事業内容等により判断すると書かれています。川崎重工業健康保険組合も、経費ごとに認める・条件付き・認めないを表にしています。
自分がどの保険者の被扶養者なのかは、配偶者の保険証や資格確認書の保険者名で分かります。基準はその保険者のページにあるので、そこを読むのが先でした。
調べても分からなかったこと
- AI 副業の収入が税で「雑所得」になる場合に、健康保険の側で事業収入と同じく直接的経費を引けるのか。協会けんぽの資料は「自営業の場合」として書かれており、雑所得についての記載は見つけられませんでした
- AI ツールの利用料が直接的経費に当たるか。各組合の一覧表に AI ツールという項目はなく、「事業内容等により判断」の範囲と読めます
- 協会けんぽの自営業者の年収確認の現行版。今回読めたのは令和元年度の再確認の案内で、同じ考え方が現在も使われているかは、協会けんぽに確認する必要があります
副業の規模で実際に引っかかるところ
- 「扶養」がどちらの話か。税は所得・暦年、健康保険は収入・今後 1 年の見込み。同じ数字でも結論が分かれます
- 新しい判定方法は給与収入だけの人向け。副業の収入があると従来の判定に戻ります
- 申立ての中身に責任がある。「給与収入のみ」と申し立てた後に副業の収入が判明すると、認定時にさかのぼって取り消される扱いです
- 経費は税ほど引けない。健康保険の側で引けるのは直接的経費で、範囲は保険者ごとに違います
- パート先の社会保険は別の線。勤務先の規模や労働時間によっては、扶養の判定とは別に勤務先で社会保険に加入する条件があります。この記事では扱っていません
副業の所得がいくらから確定申告が要るのかは、別の記事にまとめています。扶養の判定とは基準が違うので、あわせて確認する場所です。
まとめ
- 「扶養」には税と健康保険の二つがあり、見るもの・期間・基準が違う
- 税の配偶者控除は、2026 年分から合計所得金額 62 万円以下(給与だけなら 136 万円以下)
- 健康保険は年間収入 130 万円未満。事業収入も含み、差し引けるのは直接的経費
- 2026 年 4 月から、給与収入だけの人は労働契約の内容で判定されるようになった
- 副業の収入がある人は、従来どおりの判定。「給与収入のみ」と偽ると遡って取り消し
- 経費の範囲は保険者ごとに違うので、配偶者の保険者の基準を読むのが先
※この記事は 2026 年 9 月時点で厚生労働省・日本年金機構・国税庁・各保険者が公開している資料を読んだ記録です。税務・社会保険の助言ではありません。自分が被扶養者に当たるかどうかは配偶者の加入している保険者、控除の判断は税務署または税理士の確認によります。


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