2025 年に、日本で初めて AI を正面から扱う法律ができました。正式名称は「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」で、政府は「AI 法」と呼んでいます。ニュースでは「AI 推進法」「AI 新法」とも呼ばれました。
法律ができたと聞くと、「会社で ChatGPT や Claude を使うのに、何か届け出や手続きが要るようになったのか」「やってはいけないことが増えたのか」と気になります。そこで、内閣府の資料と、総務省の情報通信白書を開いて、会社で AI を使う側に何が変わったのかを確かめました。確認は 2026 年 11 月 6 日時点です。
※ 本記事は公開資料を読んで整理したもので、法的な助言ではありません。個別の判断は、社内の担当部署や専門家に確認してください。
先に結論
| 気になること | 資料を読んで分かったこと |
|---|---|
| 会社員が AI を使うのに、新しい届け出や許可は要るか | AI 法そのものに、利用の届け出や許可の仕組みはない |
| 違反したら罰則はあるか | AI 法には罰則の規定がない |
| 会社には何が求められるか | AI を使う事業者(活用事業者)は、適正な活用に努めることと、国の施策に協力することが定められている |
| 具体的な「やるべきこと」はどこにあるか | AI 法にもとづく「適正性確保に関する指針」(2025 年 12 月)に、主体ごとに取り組む事項がまとめられている |
| これまでの法律はどうなるか | 著作権法や個人情報保護法など、既存の法律はこれまでどおり適用される |
AI 法はいつ、何のためにできたのか
内閣府の資料によると、AI 法は 2025 年 5 月 28 日に成立し、6 月 4 日に公布と同時に施行されました。人工知能基本計画と人工知能戦略本部についての章は遅れて施行され、9 月 1 日に全面施行となっています。
同じ資料は、法律が必要になった理由として、日本の AI の開発・活用が遅れていることと、多くの国民が AI に不安を感じていることを挙げています。そのうえで、既存の刑法や業界ごとの法律に加えて、イノベーションを進めながらリスクにも対応するための新しい法律が必要だと説明していました。目指す姿として「最も AI を開発・活用しやすい国」という言葉も出てきます。
| 日付 | できごと |
|---|---|
| 2025 年 5 月 28 日 | AI 法が成立 |
| 2025 年 6 月 4 日 | 公布・施行(基本計画と戦略本部の章を除く) |
| 2025 年 9 月 1 日 | 全面施行。内閣総理大臣を本部長とする人工知能戦略本部が動き出す |
| 2025 年 12 月 19 日 | 「人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正性確保に関する指針」を戦略本部で決定 |
| 2025 年 12 月 | 人工知能基本計画を閣議決定 |
資料の概要図には、法律の基本理念として、研究開発力の保持と国際競争力の向上、基礎研究から活用までの総合的・計画的な推進、適正な研究開発・活用のための透明性の確保、国際協力での主導的な役割の 4 つが挙げられていました。司令塔となる人工知能戦略本部は、本部長が内閣総理大臣、構成員がすべての国務大臣です。
国がやることとして書かれていること
AI 法の中心は、国が進める施策です。内閣府の資料が「基本的施策」として並べている項目を見ると、会社員にも関係しそうなものが含まれています。
| 基本的施策 | 会社員から見た意味 |
|---|---|
| 研究開発の推進、施設等の整備・共用の促進 | 国内の AI 開発の後押し |
| 人材確保、教育の振興 | AI を使える人を増やすための取組 |
| 国際的な規範づくりへの参画、適正性のための指針の整備 | 後で触れる「指針」の根拠 |
| 情報収集、権利利益を侵害する事案の分析・対策の検討、調査 | AI による被害の事例を国が集めて分析する |
| 事業者等への指導・助言・情報提供 | 国が会社に対して助言や情報提供を行うことがある |
「指導・助言・情報提供」は、罰則のような強制ではありません。ただ、AI の使い方で権利や利益を侵害する事案が起きた場合に、国が調べたり会社に助言したりする仕組みが法律に置かれた、という点は押さえておいてよさそうです。
会社に求められているのは「努めること」と「協力」
AI 法は、国、地方公共団体、研究開発機関、AI を使う事業者、国民のそれぞれについて「責務」を定めています。会社が当てはまるのは、AI を事業に使う「活用事業者」です。
内閣府の資料の概要図では、事業者の責務として「事業者は国等の施策に協力しなければならない」と書かれています。一方、法律そのものには罰則の章がありません。「この使い方は禁止」「この手続きをしないと違反」といった形で、会社や会社員の AI の使い方を直接しばる法律ではない、というのが資料から読み取れることです。
つまり、AI 法ができたからといって、明日から会社で AI を使うのに新しい書類が必要になったり、使った人が罰せられたりするわけではありません。
具体的な中身は「指針」に書かれている
では、何をすればいいのかはどこに書かれているのか。AI 法の第 13 条にもとづいて、2025 年 12 月 19 日に「人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正性確保に関する指針」が人工知能戦略本部で決定されました。内閣府は、この指針を活用事業者に広く知らせるよう、業界団体などに周知を依頼しています。
総務省の情報通信白書(令和 8 年版)は、この指針の位置付けを、すべての主体が AI の研究開発や活用を適正に行うための「自主的かつ能動的な取組」を促すものだと説明しています。あわせて、指針は信頼できる AI の実現に向けて、国際的な規範の趣旨に沿って作られたものだとしています。白書が示す指針の概要には、適正性を確保するうえで考える要素として、次の項目が並んでいました。
| 考え方 | 考慮する要素 |
|---|---|
| 基本的な進め方 | リスクベースでのアプローチ / ステークホルダーの積極的な関与 / 一気通貫での AI ガバナンスの構築 / アジャイル(柔軟かつ迅速)な対応 |
| 大切にする価値 | 人間中心 / 公平性 / 安全性 / 透明性 / アカウンタビリティ / セキュリティ / プライバシー・個人情報 / 公正競争 / AI リテラシー / イノベーション |
| 取り組む主体 | 活用事業者・研究開発機関 / 国・地方公共団体 / 国民 |
会社員の立場から見ると、「プライバシー・個人情報」「セキュリティ」「透明性」「AI リテラシー」あたりが、日々の使い方に直接関わる項目です。指針は義務を課すものではありませんが、会社が社内の AI 利用ルールを作ったり見直したりするときの土台になっていくと考えられます。
これまでの法律は、そのまま効いている
AI 法にはっきりした禁止事項がないからといって、AI の使い方が自由になったわけではありません。内閣府の資料自身が、既存の刑法や個別の業法などに「加えて」新しい法律が必要だと書いているとおり、これまでの法律はそのまま適用されます。
たとえば、顧客の個人情報を AI に入力するなら個人情報保護法、AI で作った資料を社外に出すなら著作権法、取引先との秘密保持契約があればその契約が、これまでと同じように関わってきます。会社の資料を AI に入れていいかは、AI 法ではなく、使っている AI サービスの規約と社内のルール、そして既存の法律で考えることになります。
会社の資料を AI に入れていいかを、各サービスの規約で調べた記事はこちらです。
資料を読んでも分からなかったこと
| 疑問 | 今回読んだ範囲での状態 |
|---|---|
| 指針に沿っていない会社はどうなるのか | 指針は自主的な取組を促すもので、従わない場合の扱いは資料に書かれていない |
| 会社員個人に何かの責任が生じるか | AI 法は国民の責務も定めるが、個人に具体的な義務や罰則を課す規定は見当たらない |
| 今後、規制が強まることはあるか | 法律には見直しの規定があり、必要な場合は措置をとるとされている。中身は決まっていない |
AI で作った資料の著作権が誰のものになるかは、こちらの記事で整理しています。
まとめ
2025 年 9 月に全面施行された AI 法は、AI の研究開発と活用を進めるための法律で、会社や会社員の AI の使い方を直接しばる禁止事項や罰則はありません。会社(活用事業者)には、適正な活用に努めることと国の施策への協力が求められています。
具体的に何に気をつけるかは、2025 年 12 月に決まった「適正性確保に関する指針」に、プライバシー・セキュリティ・透明性などの項目としてまとめられています。そして、個人情報保護法や著作権法などこれまでの法律は、そのまま適用されます。AI 法ができても、会社で AI を使うときに確かめることの基本は変わらない、というのが今回の資料から言えることでした。
※ 本記事の内容は 2026 年 11 月 6 日時点で確認した公開情報です。法律や指針の運用は今後変わる可能性があります。



コメント