会社の資料作りに AI を使う人が増えてきました。企画書のたたき台、プレゼン用のイラスト、商品の説明文。では、そうやって AI に作らせたものの著作権は、会社のものになるのでしょうか。それとも、作った社員のものなのでしょうか。そもそも、著作権はあるのでしょうか。
このブログでは以前、副業で AI を使って作った納品物の権利を、文化庁の資料と各サービスの規約から読みました。今回は会社の仕事の場合です。文化庁の「AIと著作権に関する考え方について」の原文、それを引いた政府の答弁書、著作権法の「職務著作」の条文を読み、何が書かれているのかを確かめました。確認は2026年11月1日時点です。
※ 本記事は公開されている法令と政府・文化庁の資料を整理したものです。個別の資料の権利を判断するものではありません。筆者は弁護士ではなく、以下はすべて公開資料を読んだ結果です。実際の判断は、社内の法務担当や専門家に確認してください。
先に全体を並べると
会社で AI に作らせたものの権利は、次の 3 つの段階で考えることになりました。
| 段階 | 問い | 読んだ資料に書かれていたこと |
|---|---|---|
| 1 | そもそも著作物か | AI への指示がアイデアにとどまるなら著作物性は認められない。創作的寄与の積み重ねを個別に判断する(文化庁の「考え方」・政府答弁書) |
| 2 | 著作物なら、誰のものか | 会社の発意で、社員が職務として作り、会社の名義で公表するものは、原則として会社が著作者(著作権法 15 条「職務著作」) |
| 3 | 著作物でないなら、どう守るか | 著作権では守れない。社内規程や契約、社外秘としての管理など、著作権以外の方法で考えることになる |
「会社のものか」を考える前に、「そもそも誰のものにもならない」可能性がある、というのが最初のポイントです。順に見ていきます。
段階 1:AI に作らせたものは、そもそも著作物か
文化庁が公表している「AIと著作権に関する考え方について」は、文化審議会著作権分科会の法制度小委員会が 2024 年 3 月 15 日付けで取りまとめた文書です。冒頭には、この文書が公表時点での小委員会の考え方を示すもので、それ自体に法的な拘束力はないこと、特定の生成 AI について確定的な法的評価をするものでもないことが書かれていました。判例の積み重ねや技術の発展を見ながら、必要に応じて見直すとも書かれています。
そのうえで、AI 生成物が著作物にあたるかどうかについて、政府は衆議院の質問への答弁書で、この「考え方」の記述を引いています。答弁書によると、「考え方」は次の 2 点を示しています。
- 生成 AI への指示が、表現に至らないアイデアにとどまる場合には、その AI 生成物に著作物性は認められないと考えられる
- AI 生成物の著作物性は個別の事例ごとに判断され、単なる労力ではなく、創作的寄与といえるものがどの程度積み重なっているかなどを総合的に考えて判断される
報道で紹介された概要では、人が AI 生成物に創作的な表現といえる加筆・修正を加えた場合、その部分は通常、著作物にあたるとも整理されていました。
会社の資料に当てはめると、短い指示で AI に作らせ、ほとんど手を加えずに使ったスライドは、著作物にあたらない可能性があります。一方で、社員が構成を考え、出力を何度も直して仕上げたスライドは、手を加えた部分が著作物になりうる、ということです。「長い時間をかけた」という労力だけでは足りない、という点も答弁書の引用から読み取れます。
この「創作的寄与」の考え方は、副業の納品物の記事でも詳しく読みました。
段階 2:著作物なら、原則は「会社が著作者」
人の創作的な関わりがあって著作物にあたる場合、次は「誰のものか」です。ここで関わってくるのが、著作権法 15 条の「職務上作成する著作物の著作者」、いわゆる職務著作(法人著作)の規定です。
15 条 1 項は、法人などの発意に基づいて、その業務に従事する者が職務上作成する著作物で、法人などが自分の著作の名義のもとに公表するものについて、作成したときの契約や勤務規則などに別の定めがない限り、著作者はその法人などとすると定めています。条件を分けると次のとおりです。
| 条件 | 会社の資料に当てはめると |
|---|---|
| 法人などの発意に基づくこと | 上司や会社の指示で作った資料 |
| 法人などの業務に従事する者が作ること | 社員が作った資料 |
| 職務上作ること | 担当業務として作った資料 |
| 法人などが自分の名義で公表すること | 会社名で出す資料・広告・説明文など |
| 作成時の契約や勤務規則などに別の定めがないこと | 就業規則などで「著作権は社員に残る」と決めていない |
この条件を満たせば、著作者は最初から会社になります。社員が会社に権利を「譲る」のではなく、はじめから会社が著作者だという扱いです。また、同じ条の 2 項は、コンピュータのプログラムについては、会社名義で公表するという条件がなくても会社が著作者になると定めています。
「公表」の条件については、まだ公表する予定のない社内資料でも、仮に公表するとすれば会社の名義で公表されるべきものなら含まれる、という裁判所の解釈が、ソフトウェア情報センター(SOFTIC)の資料で紹介されていました。社外に出さない社内向けの資料でも、職務著作になりうるということです。
AI を道具として使ったかどうかは、この条文の条件には出てきません。つまり、社員が AI を使いながらも創作的に関わって作った資料が著作物にあたるなら、その著作物は職務著作の条件にそって、原則として会社のものと読めます。
段階 3:著作物でないなら、著作権では守れない
難しいのは、AI の出力をほぼそのまま使った資料が著作物にあたらない場合です。そのときは、職務著作の規定を当てはめる前提がなくなります。会社のものでも社員のものでもなく、著作権で守られるものがそもそもない、ということになります。
この場合、ほかの人がその資料をまねても、著作権侵害を理由に止めることは難しくなります。会社が守りたいのであれば、社内規程や取引先との契約で扱いを決めておく、外に出せない情報であれば社外秘として管理する、といった著作権以外の方法を考えることになります。文化庁は、こうした整理に使える資料として「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」(2024 年 7 月 31 日)も公開しています。
もうひとつ注意したいのは、AI サービスの利用規約です。多くの生成 AI サービスは、出力の権利を利用者に帰属させると規約に書いていますが、それは「サービス提供者が権利を主張しない」という意味で、著作権法上の著作物にあたるかどうかとは別の話です。規約で「あなたのもの」とされていても、著作物でなければ著作権は生まれません。
AI で作った資料を提出するときの責任の所在は、こちらの記事で整理しています。
調べても分からなかったこと
| 疑問 | 今回読んだ範囲での状態 |
|---|---|
| どの程度手を加えれば「創作的寄与」と認められるのか | 「積み重なり」を総合的に考えるとあるだけで、具体的な基準や数値はない |
| プロンプトを工夫しただけの資料は著作物か | 指示がアイデアにとどまれば認められないとされるが、どこからが表現かの線引きは示されていない |
| AI を使った資料について、職務著作を判断した裁判例はあるか | 今回読んだ範囲では見つからなかった |
| 社員が個人の AI アカウントで作った資料はどうなるか | 職務著作の条件は満たしうるが、AI サービス側の規約や社内規程との関係は資料からは判断できない |
このあたりは、社内の法務担当や知的財産の専門家に、実際の資料と作り方を示して確認するのが確実です。
まとめ
読んで分かったのは、会社で AI に作らせた資料の権利は、まず著作物にあたるかどうかで分かれるということでした。文化庁の「考え方」を引いた政府答弁書では、AI への指示がアイデアにとどまれば著作物性は認められず、創作的寄与の積み重ねを個別に判断するとされています。
著作物にあたるなら、会社の発意で社員が職務として作り、会社名義で公表するものは、著作権法 15 条の職務著作として原則は会社が著作者です。著作物にあたらないなら、著作権では守れないので、社内規程や契約、社外秘の管理で扱いを決めておくことになります。「AI で作ったから会社のもの」とも「社員のもの」とも、一言では言えない、というのが今回の資料から言えることでした。
※ 本記事の内容は2026年11月1日時点で確認した公開情報です。文化庁の「考え方」は法的な拘束力を持つものではなく、今後の裁判例などで考え方が変わることがあります。



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