AI で作ったものを売ろうとして、販売ページの設定画面まで来たところで手が止まりました。「特定商取引法に基づく表記」という欄です。
氏名、住所、電話番号。副業で数千円のものを売るのに、自宅の住所を出すことになるのか。ここが分からないと先に進めません。消費者庁の資料を読みました。
読んだもの
- 消費者庁「特定商取引法ガイド」の通信販売・通信販売広告・通信販売広告 Q&A
- 消費者庁「インターネット・オークションにおける『販売業者』に係るガイドライン」
- 販売先(BOOTH)の公式ヘルプ
個人でも「販売業者」になります
まず前提です。インターネットで広告を出し、そこから申込みを受けて売る形は「通信販売」に当たります。オークションサイトでの販売も含まれます。
そして消費者庁のガイドは、要件を満たせば個人であっても特定商取引法上の「販売業者」に該当すると書いています。法人かどうかは関係ありません。
「販売業者」とは販売を業として営む者で、「業として営む」とは営利の意思をもって反復継続して取引を行うことです。営利の意思があるかどうかは、本人がどう思っているかではなく客観的に判断される、とされています。転売目的で仕入れている場合は営利の意思があると判断される、という例も挙がっています。
AI で作ったものを継続して売るなら、「不要品を処分している個人」とは違う側に立っていると考えたほうが自然です。
判断の目安が出ているのはオークションの場合です
どのくらい売ったら該当するのか。数字が出ているのは、消費者庁のオークション向けガイドラインです。特別の事情がある場合を除き、販売業者に該当すると考えられる例として、次が挙がっています。
| 例示されている場合 |
|---|
| 過去 1 か月に 200 点以上、または一時点において 100 点以上の商品を新規出品している |
| 落札額の合計が過去 1 か月に 100 万円以上である |
| 落札額の合計が過去 1 年間に 1,000 万円以上である |
ただし、この数字をそのまま自分に当てはめるのは早いです。理由が二つあります。
一つめ。ガイドライン自身が「これらを下回っていれば販売業者でないとは限らない」と書いています。出品数が下回っていても、処分する頻度を超えて出品を繰り返している場合は該当する可能性が高い、とも続きます。
二つめ。このガイドラインはインターネット・オークションの特性を踏まえて作られたもので、その他の取引類型に当てはめられるべきものではない、と注記されています。自分のショップで売る場合の基準として使える数字ではありません。
加えて、オークション以外の場での取引も含めて総合的に判断される、とあります。本業で同じ商品を扱っているなら、出品が単発でも販売業者による取引に当たるという例も出ています。
表示しなければならない項目
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販売業者に当たる場合、広告に表示する事項が法第 11 条に定められています。
- 販売価格(送料についても表示が必要)
- 代金の支払時期と方法
- 商品の引渡時期
- 申込みの撤回または解除に関する事項(返品特約があればその内容)
- 事業者の氏名(名称)、住所、電話番号
問題の最後の一行です。消費者庁の解説は、ここをかなり具体的に書いています。
| 項目 | 解説に書かれていること |
|---|---|
| 氏名(名称) | 個人事業者は戸籍上の氏名または商業登記簿に記載された商号。通称・屋号・サイト名は認められない |
| 住所 | 個人・法人いずれも現に活動している住所を正確に表示する |
| 電話番号 | 確実に連絡が取れる番号。番号を載せていても意図的に常に電話を取らない状態にしているような場合は、表示したことにならない |
ペンネームでは足りない、ということです。さらにこれらは、消費者が容易に認識できる文字の大きさと場所で表示することも求められています。
住所と電話番号を省略できる条件
ここまで読むと詰んだように見えますが、消費者庁の通信販売広告 Q&A に続きがあります。住所と電話番号は、条件を満たせば表示を省略できると書かれています。
条件は二つです。
- 消費者からの請求があれば、広告表示事項を記載した書面または電子メール等を「遅滞なく」提供すると広告に表示していること
- 実際に請求があったときに「遅滞なく」提供できる措置を講じていること
ここでいう「遅滞なく」は、申込みの意思決定に先立って十分な時間的余裕をもって提供されることと説明されています。購入を迷っている人が請求したのに、買うか決めたあとに届くようでは条件を満たしません。
つまり「書かなくていい」ではなく「請求されたら出す約束をしたうえで、普段は伏せておける」という形です。請求が来て出さなければ、条件は崩れます。そもそも住所や電話番号の表示は、トラブルや問合せが起きたときの対応に備えるためのものだ、と Q&A は書いています。
販売先の画面ではどうなっているか
BOOTH の公式ヘルプを見ると、管理画面の「特定商取引法に基づく表記」から設定する、と案内されています。そのうえで、ヘルプには次の 2 点が書かれていました。
- 法第 11 条には一定の場合に項目の一部を省略できる旨の記載があり、どの項目をどう記載・省略するかはショップオーナー各自の判断とされている
- 特定商取引法上の「販売業者」に当たらない場合は開示の義務はない。該当するかどうかは消費者庁のガイド等で確認するよう案内されている
読み替えると、プラットフォームは判断を代行してくれません。初期設定の文面が入っていても、それで条件を満たしているかどうかは出品者の側の話になります。
販売先ごとの手数料と入金までの日数は、別の記事にまとめています。
返品について書かないと、8 日間が付いてきます
氏名や住所ほど話題になりませんが、表示事項には申込みの撤回・解除に関する事項も入っています。ここを書かないと、書かないなりの扱いになります。
消費者庁の解説はこうです。通信販売では、商品の引渡しを受けた日から数えて 8 日以内なら、消費者は申込みの撤回や解除ができ、消費者の送料負担で返品ができる。ただし事業者が広告であらかじめ特約を表示していた場合は、その特約によります。
つまり返品の条件を書いていない状態が、いちばん緩い条件を選んだことになります。「返品不可」と書いてあれば、隠れた瑕疵がない限り原則として返品はできない、という整理も示されています。
書き方にも決まりがあります。返品特約の表示については別途ガイドラインがあり、返品の可否・条件・送料負担を、消費者が容易に認識できるように表示することが求められています。小さな注記や、フッターの奥だけでは足りないという趣旨です。
なお、ダウンロード販売のように引渡しの形が違うものをこの 8 日間がどう扱うかは、読んだ範囲の資料からは分かりませんでした。
違反するとどうなるか
消費者庁は、通信販売の規制に違反した事業者は行政処分の対象となるほか、一部は罰則の対象にもなると書いています。行政処分には業務改善の指示や業務停止命令・業務禁止命令があります。
個人の副業規模でどう運用されているかまでは、公開資料からは分かりませんでした。ここは「書いていない」ことのほうを持ち帰るところです。
売り始める前に決めておくこと
- 自分が販売業者に当たるかを先に考える。継続して売って利益を得るつもりなら、当たる前提で組み立てるほうが安全です
- 氏名はペンネームでは足りない。戸籍上の氏名か登記した商号です
- 省略するなら、請求に応える体制まで用意する。表示だけして応えられないなら、条件を満たしていません
- 連絡手段を先に決める。確実に連絡が取れる番号、という要件があります
- 販売先のテンプレートを鵜呑みにしない。各自の判断、と公式ヘルプが書いています
まとめ
- ネットでの販売は通信販売に当たり、要件を満たせば個人でも「販売業者」になる
- 判断基準は営利の意思をもって反復継続しているか。客観的に判断される
- 数字の目安が出ているのはオークション向けガイドラインで、他の取引類型に当てはめるものではないと注記されている
- 表示事項の氏名は戸籍上の氏名または商号。通称・屋号・サイト名は認められない
- 住所と電話番号は、請求があれば遅滞なく提供する旨を表示し、実際に提供できる措置を講じていれば省略できる
- 返品特約を書かなければ、引渡しから 8 日間の返品が付く
- プラットフォームは該当性を判断してくれない。公式ヘルプも各自の判断と書いている
※この記事は 2026 年 9 月時点で公開されている資料を読んだ記録です。法的な助言ではありません。自分が販売業者に当たるかどうかの判断や、個別の表記の書き方については、消費者庁の窓口や専門家の確認によります。



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