AI で作ったものを売り始めると、どこかで「登録番号はありますか」と聞かれます。インボイス(適格請求書)の話です。
この制度は、2026 年がひとつの区切りになっています。小規模な事業者向けの「2 割特例」が、個人事業者は 2026 年分の申告で終わるからです。国税庁のページを読みました。
読んだもの
- 国税庁「インボイス制度」特設サイト
- 国税庁「令和 8 年度税制改正特集」(3 割特例・簡易課税への移行・7・5・3 割控除)
- 国税庁タックスアンサー(簡易課税制度・適格請求書等の記載事項)
まず、登録は任意です
前提を置きます。インボイスを発行できるのは「適格請求書発行事業者」として登録した課税事業者だけです。免税事業者のままなら発行できません。
そして登録するかどうかは任意です。副業の規模で基準期間(個人事業者は前々年)の課税売上高が 1,000 万円以下なら、そもそも消費税の免税事業者です。登録すれば、その立場を自分から外して課税事業者になります。
ここが判断の分かれ目です。登録しなければ納税の手間はありませんが、発注側は仕入税額控除の扱いが変わります。登録すれば取引の条件はそろいますが、申告と納税が発生します。どちらが得かは取引先の構成によるので、この記事では決めません。
インボイスとは、何を書いた書類か
登録したあとに何が増えるのかも見ておきます。国税庁は、インボイスを「売手が買手に対して、正確な適用税率や消費税額等を伝えるもの」と説明しています。請求書という名前である必要はなく、領収書でも納品書でも、必要な事項が書かれていればインボイスです。
書く事項は、交付先の相手方の氏名または名称、売手の氏名または名称と登録番号、取引年月日、取引内容、税率ごとに区分した対価の額と適用税率、税率ごとに区分した消費税額などです。登録番号は、登録後に税務署から通知されます。
交付したら終わりでもありません。交付したインボイスの写しは、交付した日の属する課税期間の末日の翌日から 2 か月を経過した日から 7 年間の保存が求められます。副業でも、渡した請求書のデータを消さずに残しておく話になります。
ここまでが、登録するとついてくる作業です。納税だけでなく、書類の体裁と保存も含まれます。
2 割特例は、今年で終わります
登録した人の負担を軽くする措置が「2 割特例」です。売上にかかった消費税額の 2 割を納税額にできる計算方法で、仕入れや経費を集計しなくても金額が出ます。
この特例には期限があります。2026 年 9 月 30 日が属する課税期間まで。個人事業者の課税期間は暦年なので、2026 年分の確定申告が最後ということになります。
いま副業で登録している人にとっては、次の申告がその最後の 1 回です。
個人事業者にだけ残る「3 割特例」
そのあとにどうなるか。令和 8 年度の税制改正で、個人事業者に限って「3 割特例」が用意されました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 個人事業者のみ(法人は対象外) |
| 対象年分 | 令和 9 年分(2027 年)・令和 10 年分(2028 年)の 2 回 |
| 内容 | 納付税額を売上税額の 3 割にできる |
| 要件 | 基準期間(2 年前)の課税売上高が 1,000 万円以下/インボイス発行事業者の登録を受けている/登録により免税事業者から課税事業者になった |
| 手続き | 事前の届出は不要。確定申告書に適用する旨を記載する |
計算も同じ考え方で、売上の消費税額から 7 割を差し引いた残りが納税額になります。売上税額だけ分かれば計算でき、インボイスの保存は要りません。
一方で、国税庁は対象外になる例も並べています。法人、インボイス発行事業者でない課税事業者、課税売上高が 1,000 万円を超える人、調整対象固定資産などの取得により免税事業者とならない人、課税期間を短縮している人です。
まとめると、個人事業者の流れはこうなります。
- 〜2026 年分:2 割特例
- 2027 年分・2028 年分:3 割特例(要件を満たす場合)
- 2029 年分以降:一般課税または簡易課税
簡易課税への移り方が緩くなっています
特例が終わったあとの受け皿のひとつが簡易課税制度です。基準期間の課税売上高が 5,000 万円以下の課税期間について、売上の消費税額に業種ごとの「みなし仕入率」を掛けた額を仕入れの消費税額とみなして計算します。
| 事業区分 | みなし仕入率 |
|---|---|
| 第 1 種(卸売業) | 90% |
| 第 2 種(小売業など) | 80% |
| 第 3 種(製造業・建設業など) | 70% |
| 第 4 種(上記・下記以外) | 60% |
| 第 5 種(サービス業、運輸通信業、金融・保険業) | 50% |
| 第 6 種(不動産業) | 40% |
この制度は本来、適用を受けたい課税期間の初日の前日までに届出書を出す必要があります。1 年前に決めておく形です。
ここに緩和が入りました。2 割特例・3 割特例を受けた翌課税期間に簡易課税へ移る場合は、その課税期間の申告期限までに届出書を出せば、その期間から適用できます。つまり、1 年間の実績を見てから決められるということです。
ただし簡易課税は原則として 2 年間は続ける必要があります。その年だけ有利だから、という選び方はできません。
登録していない側にも、2026 年 10 月から変化があります
登録しない選択をした人にも関係する話です。免税事業者などインボイス発行事業者以外から仕入れた場合に、買い手がどれだけ控除できるかの経過措置が変わります。
| 期間 | 控除できる割合 |
|---|---|
| 2023 年 10 月〜2026 年 9 月 | 80% |
| 2026 年 10 月〜2028 年 9 月 | 70% |
| 2028 年 10 月〜2030 年 9 月 | 50% |
| 2030 年 10 月〜2031 年 9 月 | 30% |
| 2031 年 10 月〜 | 控除できない |
改正前は 2026 年 10 月から一気に 50% へ下がり、2029 年 10 月で終わる予定でした。下げ方がなだらかになり、期限も 2 年延びた形です。
ひとつ制限が付きました。同じ相手からの課税仕入れの合計が、その年で 1 億円(改正前は 10 億円)を超える場合、超えた部分にはこの控除を使えません。2026 年 10 月 1 日以後に開始する課税期間からの適用です。個人の副業規模で届く金額ではありませんが、発注側の事情として知っておくと話が読めます。
ほかに効いている措置
国税庁の一覧には、期限付きの措置がほかにも並んでいます。
- 少額特例(一定規模以下の事業者が、少額の課税仕入れについてインボイスの保存なしで控除できる措置)は2029 年 9 月 30 日まで
- 登録の柔軟化(課税期間の途中でも登録できる扱い)は2029 年 9 月 30 日が属する課税期間中まで
どれも期限のある措置です。いま見えている運用が、そのまま続く前提では置かないほうが安全でした。
どちらが有利かは、国税庁も断定していません
3 割特例のQ&Aには、そのまま読むと拍子抜けするような但し書きが付いています。業種や仕入れの状況によっては、簡易課税制度のほうが有利な場合があるという記述です。
たとえばサービス業に当たる場合、簡易課税のみなし仕入率は 50% です。売上税額の 5 割を差し引く計算になり、3 割特例(7 割を差し引く)のほうが納税額は小さくなります。一方で第 1 種や第 2 種に当たる取引なら、みなし仕入率のほうが高くなります。
つまり自分の取引がどの事業区分に入るかで結論が変わるということです。AI で作ったものを売る場合、それが仕入れた商品の販売なのか、役務の提供なのかで区分の見方が変わります。ここは公式の資料を読んでも自分では決めきれない部分で、税務署か税理士に聞く場所でした。
副業の規模で実際に引っかかるところ
- 売り先が誰か。相手が事業者なら登録番号を求められることがあり、相手が消費者中心なら事情が変わります
- 登録は戻しにくい。登録すると課税事業者になります。やめる手続きにも期限や条件があるので、始める前に確認する場所です
- 売上高の基準は 2 年前。今年の売上ではなく基準期間で判定されます
- 申告の手間は特例で変わる。2 割・3 割特例なら売上税額だけで計算でき、インボイスの保存も不要です
- 販売先の画面表示と自分の義務は別。プラットフォームが請求書を出していても、登録の有無は自分の話です
所得税の側で、そもそもいくらから申告が要るのかは別の記事にまとめています。
まとめ
- インボイスの登録は任意。登録すると課税事業者になる
- 2 割特例は個人事業者なら 2026 年分の申告が最後
- 2027・2028 年分は個人事業者だけ 3 割特例。法人は対象外
- 特例の翌課税期間に簡易課税へ移るなら、申告期限までの届出で足りる。ただし簡易課税は原則 2 年継続
- 登録していない相手からの仕入れの控除は、2026 年 10 月から 70%、以後 50%・30% と下がる
- 少額特例・登録の柔軟化にも期限がある
※この記事は 2026 年 9 月時点で国税庁が公開している資料を読んだ記録です。税務上の助言ではありません。自分がどの特例を使えるか、登録するかどうかの判断は、税務署または税理士の確認によります。



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