クラウドソーシングやココナラで仕事を受けると、規約か契約書のどこかに、こういう一文があります。
成果物に関する著作権等の知的財産権(著作権法第 27 条及び第 28 条の権利を含みます)は、クライアントに譲渡されるものとする
納品物の一部を AI で作っていた場合、この条項はどう効くのか。手で描いたものと同じように、権利がそのまま相手に移るのか。そこが気になって、公式の資料を読みました。
先に結論
読んだ範囲では、こうでした。
- 譲渡の話の前に、「そもそも著作権が発生しているか」という段がある
- AI が生成したものは、常に著作物とは限らない。人の関わり方で分かれる
- 発生していない権利は、譲渡条項をどう書いても移らない
- ただし「権利がない」ことと「使ってもらって困る」ことは別。納品自体が止まるわけではない
以下、どこにそう書かれていたかを並べます。
まず、どこに書かれているのか
読んだのは次の三つです。
- 文化庁「AIと著作権に関する考え方について」(文化審議会著作権分科会法制度小委員会・2024 年 3 月)
- 著作権法の条文(第 2 条第 1 項第 1 号、第 59 条、第 61 条第 2 項)
- クラウドソーシング各社の利用規約の権利条項
一つ目には、冒頭に断りが置かれています。この資料自体に法的な拘束力はなく、現時点の解釈について審議会としての一定の考え方を示したものだという趣旨です。生成 AI と著作権を直接扱った判例がまだ乏しいことも、同じ資料に書かれていました。
つまりこの記事も、「こう決まっている」ではなく「今はこう整理されている」までの話になります。
譲渡の前に、発生の段がある
著作権法は、著作物をこう定義しています(第 2 条第 1 項第 1 号)。
- 思想又は感情を
- 創作的に
- 表現したものであって
- 文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの
文化庁の資料は、この定義を AI に当てはめて二つに分けていました。
| 状況 | 資料の整理 |
|---|---|
| 人が指示を与えず、または簡単な指示を与えるにとどまり、生成ボタンを押しただけ | 「思想又は感情を創作的に表現したもの」ではなく、著作物に該当しないと考えられる |
| 人が創作のための「道具」として AI を使ったと認められる | 著作物に該当し、AI 利用者が著作者となると考えられる |
分かれ目は「創作意図があるか」と「創作的寄与と認められる行為を行ったか」の二つだと書かれています。
ここが納品物の話につながります。著作権が発生していなければ、譲渡する対象がありません。
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「創作的寄与」として挙げられていた要素
では何をすれば「道具として使った」ことになるのか。資料は、個々の生成物ごとに個別具体的な事情に応じて判断されると前置きした上で、判断要素の例を挙げていました。
| 要素 | 書かれていたこと |
|---|---|
| 指示・入力の分量 | 創作的表現といえるものを具体的に示す詳細な指示は、創作的寄与があると評価される可能性を高める。長い指示でも、創作的表現に至らないアイデアを示すにとどまる場合は判断に影響しない |
| 生成の試行回数 | 回数が多いこと自体は判断に影響しない。生成物を確認して指示を修正しつつ繰り返した場合は、認められる場合もある |
| 複数の生成物からの選択 | 単なる選択行為自体は判断に影響しない |
| 加筆・修正 | 創作的表現といえる加筆・修正を加えた場合、通常、その部分については著作物性が認められる |
並べてみると、「たくさん試した」「たくさん書いた」「良いものを選んだ」は、それだけでは効かないという整理です。効くとされているのは、具体的な表現を指示したことと、自分で手を入れたことでした。
もう一点、「AI 生成物であること」によって一律に著作物に該当する/しないが決まるものではないとも書かれています。AI を使ったから全部だめ、でもありません。
規約の譲渡条項は、何を前提にしているか
クラウドソーシング側の規約を見ると、権利条項はおおむね次の形でした。
- 納品した成果物に関する著作権等の知的財産権は、取引によって譲渡がなされない限り作成した本人に帰属する
- 譲渡の対象には著作権法第 27 条及び第 28 条の権利を含むと明記されている
- 権利を譲渡した成果物について、クライアント等に対して著作者人格権を行使しない
- 取引の中で別途取決めがある場合は、そちらが優先される
二つ目の書き方には理由があります。著作権法第 61 条第 2 項により、単に「著作権を譲渡する」とだけ契約した場合、第 27 条(翻案等の権利)と第 28 条(二次的著作物の利用に関する権利)は譲渡した側に留保されたものと推定されます。完全に移したいなら、その二つを明示する必要がある。文化庁の解説ページにも同じ説明が置かれていました。
三つ目は、著作者人格権が譲渡できないためです。第 59 条は「著作者人格権は、著作者の一身に専属し、譲渡することができない」と定めています。そこで譲渡の代わりに「行使しない」という約束を置く形になっています。
ここで分かるのは、この条項はどれも「著作権が発生していること」を前提に書かれているということです。発生していない場合にどうなるかは、規約には書かれていませんでした。
発生していない権利は、どう書いても移らない
整理すると、AI を使った納品物は、条項の通り方が三つに分かれます。
| 納品物の中身 | 譲渡条項がどう効くか |
|---|---|
| 自分で書いた・描いた部分 | 著作権が発生している。条項どおり移る |
| AI の出力に、自分で創作的な加筆・修正を加えた部分 | その加筆・修正の部分については著作物性が認められるとされている |
| 簡単な指示で出力させ、そのまま出した部分 | 著作物に該当しないと考えられる。移す権利がない |
三つ目のとき、「著作権を譲渡した」という合意は成立しているのに、中身が空になります。条項の書き方の問題ではなく、対象が存在しないという話です。
受注側から見ると、これは損な話には見えません。むしろ問題は発注側に出ます。独占して使いたくて権利を買ったのに、ほかの人が似たものを使っていても止められない状態になり得るからです。ロゴやキャラクターのように、独占が前提の納品物ではここが効いてきます。
権利の話と、責任の話は別に立っている
もう一つ、混ざりやすいところがあります。
文化庁の資料は、「AI 生成物が著作物となるか」と「生成や利用が既存の著作物の著作権侵害となるか」は別個の問題だと明記しています。自分に権利がないことと、他人の権利を侵していないことは、別々に判断されます。
侵害になるのは、既存の著作物との類似性(創作的表現が共通していること)と依拠性(既存の著作物をもとに創作したこと)が認められる場合だとされています。依拠性については、既存の著作物が学習データに含まれていることが立証できる場合、利用者がその著作物を認識していなくても、通常は依拠性があったと推認されると書かれていました。
そして規約側には、第三者の権利を侵害していないことを受注者が保証するという条項が置かれています。保証に反していた場合は損害賠償その他の責任を負う、という形です。
つまり、権利は発生していないかもしれないのに、侵害していないことの保証だけは求められるという並びになります。ここは納品前に意識しておいたほうがよさそうです。
公式に書かれていなかったこと
- どこまで手を入れれば著作物になるのか、という線引き。個別具体的な事情に応じて判断されるとあるだけで、分量や割合の基準は見つけられませんでした
- 納品時に AI を使ったことを申告する義務。読んだ規約の権利条項には、その定めを見つけられませんでした(案件ごとの指定は別です)
- 権利が発生していなかった場合に報酬がどうなるか。規約には記載を見つけられませんでした
- この論点を直接扱った判例。文化庁の資料自体が、判例・裁判例が乏しい状態だと書いています
納品する前に確認しておくこと
- 案件が AI の使用を認めているか。権利の話より前に、この確認が先です
- 独占して使う前提の納品物かどうか。ロゴ・キャラクター・商標を取る予定のものは、権利が発生しているかどうかが相手側の目的に直結します
- どこを自分で作ったか、残しておく。指示の内容、修正の経緯、手を入れた箇所。あとから説明を求められたときに、これしか手元に残りません
- 第三者の権利侵害の保証条項があるか。ほぼ入っています。何を保証させられているのかは読んでおく
- 個別の取決めが規約に優先する。案件ページや個別契約に別の定めがあれば、そちらが効きます
まとめ
- 譲渡条項は著作権が発生していることを前提に書かれている
- AI の出力は、人の創作意図と創作的寄与があるかで分かれる。簡単な指示で出しただけのものは著作物に該当しないと整理されている
- 発生していない権利は、条項をどう書いても移らない。困るのは主に発注側
- 権利の有無と、侵害していないことの保証は別に立っている
- 線引きの基準は公式には示されていない。手を入れた記録を残しておくのが、いまできることでした
※この記事は 2026 年 9 月時点で公開されている資料と規約を読んだ記録です。法的な助言ではありません。個別の案件については、契約の内容と専門家の確認によります。


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