「AI が書けるようになったから、プログラマーの仕事はなくなる」。この話をよく見かけます。
実際に不安として書かれているのは、たとえばこういう形です。就職活動で未経験の開発職に内定をもらったが、設計書どおりに書く仕事は遠くない先に失われるのではないか。転職して 1 年目だが、今書けるのは AI で済んでしまう程度のものだ。
この記事では、この話がどこまで成り立つのかを公式の推計で確かめます。調査は2026年8月8日時点です。
※ 本記事は公開されている経済産業省等の資料の整理であり、将来を保証するものではありません。
読む材料になる推計がある
経済産業省が「IT 人材需給に関する調査」を公表しています。経済産業省・厚生労働省・文部科学省の三省連携で行われたもので、2018 年 6 月から 2019 年 3 月にかけて検討され、2019 年 4 月に概要が出ています。
調査時点を先に押さえておきます。生成 AI が広く使われるようになる前の推計です。この点は最後にもう一度触れます。
推計に書かれているのは「不足」のほうだった
まず全体の数字です。IT 需要の伸びを年平均 2.7% 程度、労働生産性が年 0.7% 上昇するという前提で、需要と供給の差はこうなっています。
| 年 | 需給ギャップ |
|---|---|
| 2018 年 | 22 万人 |
| 2020 年 | 30 万人 |
| 2025 年 | 36 万人 |
| 2030 年 | 45 万人 |
供給側も減りません。2030 年の IT 人材の供給は 113 万人と、増加する見通しになっています。労働人口全体は減るなかで、この分野は増えると試算されました。
それでも足りない、という形です。ここまでを読む限り「なくなる」という話は出てきません。
ただし、この推計には別の条件が書いてある
同じ資料に、続けてこう書かれています。年 3.54% の労働生産性上昇を実現した場合には、2030 年時点の需要と供給は均衡する見込みである。
つまり「生産性が上がれば不足は消える」という条件が、最初から推計に入っています。そして生成 AI が実際にやっているのは、まさに生産性を上げることです。
では 3.54% がどれくらいの水準なのか。同じ資料に情報通信業の労働生産性上昇率が載っています。
| 国 | 1995 年以降 | 2010 年代 |
|---|---|---|
| 米国 | 5.4% | 2.2% |
| ドイツ | 4.2% | 4.2% |
| フランス | 3.1% | 2.3% |
| 日本 | 2.4% | 0.7% |
日本の 2010 年代は 0.7% です。3.54% は、過去の実績から見るとかなり高い水準にあたります。推計の基本ケースが 0.7% を使っているのはそのためです。
「なくなる」に近い数字は、別のところにあった
この調査は IT 人材を 2 つに分けています。
| 区分 | 対象とする市場 |
|---|---|
| 従来型 IT 人材 | 従来型 IT システムの受託開発、保守・運用サービス等 |
| 先端 IT 人材 | IoT および AI を活用した IT サービス |
そのうえで、従来型から先端へ転換する割合(資料では Re スキル率)を変えて試算しています。2030 年時点の結果です。
| 転換率 | 従来型 IT 人材 | 先端 IT 人材 |
|---|---|---|
| 年 2% | 過不足なし | 45 万人 不足 |
| 年 1% | 10 万人 余る | 55 万人 不足 |
ここが今回いちばん重要な箇所です。推計が示しているのは「仕事がなくなる」ではなく、「どちらの市場にいるかで結果が逆になる」という形でした。
転換が進まない場合、従来型の側は供給が需要を 10 万人上回ります。同じ年に、先端の側は 55 万人足りません。同じ業界の中で、余るところと足りないところが同時に発生するという推計です。
AI 側の人材はどう見積もられていたか
この調査は AI 人材も別に試算しています。
- 供給は 2018 年時点で 1.1 万人規模。2030 年には 12.0 万人と約 11 倍に拡大する見通し
- それでも需要の伸びが平均シナリオの場合、2030 年に 12.4 万人の不足が残る
- 需要の伸びが低位の場合は、ギャップが 2018 年の 3.4 万人から 2030 年に 1.2 万人まで縮小する
低位と平均で結論が変わります。「AI 分野なら安泰」と言い切れる数字にはなっていません。市場の伸び方しだいです。
この推計を、そのまま今に当てはめられるか
ここは正直に書きます。できません。
- 公表は 2019 年 4 月です。生成 AI が業務に入る前の推計です
- 需要の伸びは企業向けアンケート(IT 企業・ユーザー企業各 3000 社、回答 2173 社)に基づいており、当時の見通しです
- 生産性上昇率の前提も、2010 年代の実績から置かれています
したがって数字そのものを 2026 年の予測として読むことはできません。読めるのは構造のほうです。「不足か過剰か」は、生産性の上昇率と、人がどちらの市場に移るかで決まる。この形は、生成 AI が入っても変わっていません。
IT の仕事をしている立場から
実務で見ていると、AI に置き換わりやすいのは「工程」であって「職種」ではありません。
仕様が決まっていて、書くものが決まっている部分は速くなりました。一方で、何を作るかを決める、既存の仕組みと整合を取る、動かなくなった原因を切り分ける——このあたりは、生成物を受け取る側に判断が要るままです。
推計の言い方に戻すと、従来型の受託開発・保守運用に寄っているほど影響が早く出るということになります。区分の定義がそのまま当てはまります。
ひとつ自分の失敗も書いておきます。10 年ほど前、ブログとアフィリエイトを一度やって畳んでいます。当時「これから伸びる」と言われた形をそのまま追いかけて、条件が変わったときに動けなくなりました。伸びる分野を選ぶより、条件が変わったときに移れるかどうかのほうが効きます。今回の推計を読んでいて、転換率の欄が同じことを言っているように見えました。
まとめ
- 公式の推計に「プログラマーの仕事がなくなる」とは書かれていない。2030 年に 45 万人不足という形
- ただし年 3.54% の生産性上昇が実現すれば需給は均衡するという条件が併記されている。日本の 2010 年代の実績は 0.7%
- 「なくなる」に近いのは従来型と先端の分岐。転換が年 1% にとどまると、従来型は 10 万人余り、先端は 55 万人足りない
- AI 人材の供給は2030 年に約 11 倍と見込まれるが、需要の伸びしだいでギャップは 1.2 万人にも 12.4 万人にもなる
- この推計は 2019 年 4 月公表。生成 AI 以前のもので、数字をそのまま今に当てはめることはできない
ここまでは成立します。そして、ここから先は条件が付きます。どの市場の仕事をしているのか、生産性が上がった分をどこに使うのか。「なくなるか、ならないか」ではなく、この 2 つが分かれ目になる、というのが推計の読み方です。
AI に作らせたものを実際に業務で出すときの話は、別の回にまとめています。
※ 本記事は2026年8月8日時点で公開されている経済産業省「IT 人材需給に関する調査(概要)」(2019 年 4 月)等の公表資料をもとに整理したものです。推計はいずれも前提を置いた試算であり、前提が変われば結果も変わります。最新版は各公式サイトをご確認ください。



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